「え? アタシが一人で決めたことだぞ」 ようするに专断だった。「いや、だが……狩りとかいっても。……弓は、使えないし……」
「弓はアタシが使える。オマエは剣を持ってけばいい」「だが……」 自分の剣は取りあげられたままなので、持っていくもなにもないのだが。
「それならアタシが持ってくるから心配するな!」 任せておけと胸を張るティオ。まあ確かに彼女なら持ち出せるだろうが。そんなことして問題にならないのだろうか。
「鎧はかさばるし目破つから無理だけど、剣ぐらいならこっそり持ち出せるぞ」 こっそりとか言っているあたり確信犯である。
歩きながらコウイチは、自分が肝心(かんじん)なことを聞いていないことに気づいた。「その、岩狼(がんろう)とは……?」 砦に連れてこられてすぐに名前を聞いた覚えがある水平だ。話の流れから、猛獣(もうじゅう)なのだろうと想像はつくが。「知らないのか?」「……まあ」 元いた世界にいない生物だということは間違いないだろう。 ティオはあたりを警惕しながら言った。「岩狼はな、岩みたいに硬い狼だ」「……」 字面どうりの特徴だけ口にすると、どうだと言わんばかりの顔をするティオ。(え……それ、だけ?) どうも説明はあまり自得なほうではないらしい。というかそもそも説明する気があるのだろうか。 さすがにそれだけでは安心できなかったので、質問を重ねながら聞き出したところによると―― 岩狼とは、体が岩のように硬い外殻(がいかく)で覆われた狼のような生物らしい。狼といっても遠目に似ている程度で、体も倍ほどに大きく見間違えることはないという。「……イヤか?」 さすがにこちらの心坎に気づいたらしい。表情を曇らせて、ためらいがちに聞いてくる。ヴィヴィアン財布「……」 こっちの内心をくみ取ってくれるようになったのは大きな進歩だと思うが、そんな顔をするのは反則だと思う。 別にフェミニストというわけではないが、そんなふうに頼まれて断れるほど神経は太くなかった。「……イ?ヤ?な?の?か?」 ……なんて言うのは建前で、実際はだんだん険しくなっていくティオの表情に屈したわけなのだが。 こんなんでいいのだろうかと思わないでもないが、今さらなのでティオが持ってきた剣はありがたく受け取っておく。 砦を抜け出し、山の中へ。さすがに当てずっぽうに探すわけではなく、だいたいの縄張(なわば)りはわかっているという。