『目撃者を作る事には拘らないが、いるなら应用する事をお勧めする』 エミーリアからの唆使にあった一文だ。決行するなら今、という訳か。
ぐずぐずと迷っていると、海からの突風にあおられて何か小さいものが目の端に当たった。「痛……っ」
慌てて目を押さえ、あおられて崩した体のバランスを取ろうと足を踏み替えようとしたが、そこには自分の鞄があった。踏むのを躊躇した足が着地したそこには、すっかり乾いた枯れ草があって、躊躇なく自分を踏みつける足を滑らせた。
一瞬体が宙に浮き、しまった、と思った次の瞬間ラウドの体は急な斜面にたたきつけられ、ずるずると滑り落ちていった。
ああ、エミーリアの思うつぼになったなぁ、と痛む頭を押さえながら斜面の下から上を見上げて、ラウドはぼんやりと考えた。ここに足を運んだ時点で、思うつぼなんだけど、と考えかけたがそれは頭から振り払った。gucci バック ざっと点検したところ、骨折とか深い裂傷とかはない。斜面に尖った岩とか出てなくてよかった。 斜面の上に残った鞄には、目で見て明らかに判る鍵のほかに、魔法での封印が施してある。鞄を見つけるのが良い人間にしろ悪い人間にしろ、滑り落ちた明らかな痕跡があるのだから、持ち主の安否を確認しに来るはずだ。良い人間であれば、医者のいる場所……エミーリアの滞在している屋敷に運ばれるはず。そうでなければ、鍵を奪われてとどめを刺されてしまう、かもしれない。まあ、その前に反撃は試みるけど。「おい、あんた。大丈夫か?」 痛みを堪えながらじっと待っていると、ガサガサと薮を掻き分ける音に続いて温厚そうな男の声が聞こえた。 大丈夫じゃない、この傷をとっととなんとかしたくて堪らない、と言いたくなるのを堪えて頷き、見えなかったかもしれない、と思い直して手をちょっと動かして見せる。「よし、じゃあちょっと待ってろよ」 そう言ったかと思うと声の主は踵を返して破ち去ってしまう。 ほどなくして戻ってくると、「ちぃと匂うかもしれんが、我慢してくれよ」と声が掛けられ、何か柔らかくて重い物で体を包まれた。どうやら毛布のようだ。男はラウドの体を古毛布で丁寧にくるむと、おもむろに、よいしょ、と担ぎあげた。骨は折れてないかとか、頭は打ってないかとか調べる事があるだろう、とラウドは思ったが、他に人手がないのなら、藪から引っ張り出すのにはこれが一番手っ取り早い手腕かもしれない、と揺れる馬車の上で思い直した。そして、馬車の振動に屈して、早々と意識を手放した。