薄暗い部屋の中、侵入者があるにも関わらず、窓からの陽光だけでその男は黙々と作業を続けている。
こちらに背を向けていて顔は確認できないが、伸び散らかした頭髪の色が東国人特有の黒色を示しており、彼が東国の出身であるということは一目瞭然であった。
「ノブヤス様でござるな？」 リンドウが声を荒げて訊ねてみると、「何じゃ、人の家に勝手に上がり込んで騒々しい」と、男が不満たらたらに振り返る。
「ほぉ～、エドからの使者……か？」 リンドウたちの姿を見ると、男の顔は少し呆けたようになった。
「考え直してはくださらんか、ノブヤス様？ 従ってくださらねば、力ずくでもあなた様を本国に送還せねばならなくなります故」「何度言われても、無理なものは無理じゃ。少なくとも魔道薬が完成するまでは、な」 リンドウはノブヤスの頑なな態度に「う～む」と眉根を寄せる。 しかしこの男――何と言うか、実に惜しかった。きりっとした意思の強そうな眉に切れ長の目、すっと鼻梁の通った鼻に形のいい唇と、なかなか整った顔立ちをしていたのだが、一点だけ難があったのだ。それは禿げていることだ。リンドウたちが後姿で彼を東国人だと判断できたように後ろ髪はあるのだが、前方がいけなかった。前方から見ると、揉み上げ部分、そして額の上に五百円玉大の面積がチョロチョロと申し訳程度に生えているだけで、後は無防備に地肌を曝け出した状態で、中途半端なのだ。オマケに顔が必要以上に整っている分、より一層滑稽さが増していた。グッチ 財布 新作 そしてその禿げ方でリンドウは彼がノブヤスと確信した。彼の禿げ方は、将軍家に代々伝わる禿げ散らかし方だったのである。「お捜ししました、ノブヤス様。拙者はリンドウ?カキツバタと申します。実はノブヤス様――」 リンドウはノブヤスの弟であるヒデタダが病死したこと、そしてノブヤスとその息子であるコウガをエドへと呼び戻すよう使命を受けていることを彼に告げた。 しかしノブヤスはそれに難色の色を示した。「コウガを連れて行くのは構わんが、わしはこの地を離れるわけにはいかん……長年追い続けて来た魔道薬が後一歩で完成しそうなんじゃ……それまでは何があろうとここを離れるわけにはいかんのじゃ」「研究は向こうで続ければよろしいではございませんか？」 アヤメがそう提案するが、ノブヤスはかぶりを振った。どうやら魔道薬の研究に必要な動植物が、東国では乏しく手に入らないものが多いらしい。関連している文章：
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