「街の噂によれば、殿下の護衛に御出でになったトラビス将軍によって、お仕置きの沙汰が下されたとも聞いておりますが……」「子爵が高利貸しだった城下においては、民の悲嘆に心を痛められた将軍が、何度も御奏上申し上げていたにも拘らず、陛下が取り合って下さらないのをいい事に、実に悪辣な取立てをしておりましたからな」
「将軍閣下は廉潔なご気性であらせられる。彼はそれを煙たがっていたとの噂もありましたし……」「その御仁がとうとう処罰されるとは、何とも胸の空く思いですが、罪状が何だったのかが気になりましてね」「ランジャ殿は何かご存知では……?」「さぁ? 大方、殿下の御不興でも買ったんじゃないすかね」
俺の顔を一斉に覗き込む彼らに面食らいつつも、適当なことを答えつつにやりと笑って見せると、彼らもまた我が意を得たりといった顔で頷き合う。「やはり殿下は神祖の血統であらせられたか」 温和な雰囲気の石使いが、嬉しそうに呟きながら杯を干す。「それに仇成せば、月夜に雷の降るも当然ですな」
「以前には、城にも雷が降りました。あれを見た時には確信しましたよ。あぁ、やはり陛下の御血筋は偽りであったか、と……」 給仕を呼び止めて、てんでに取った新しい酒を俺にも勧めると、互いに笑顔を見交わしながら杯を掲げ合う。何やら勝手に盛り上がってるけど、強ち外れでもないところが面白いな。
「そう言えば、嘗て噂がありましたな。殿下の父君は王ではないと」「ありましたね。粛清に継ぐ粛清で、誰もが口を噤んでしまいましたが、あのお仕置きこそが真実を語っていますよ」「思えば亡きエマ妃も御労しや。神祖の血統ながら後宮に納められるとは……」「殿下の放蕩振りにも、さぞかしご心痛だったでしょうね。いかな神祖の血筋と言えども、このままでは将来が憂えてなりませんよ」「ですが、近頃城下の子供たちの間では、女神を讃える歌が流行っているようです。これは神祖の御世の到来を告げる神界の声では、と噂するものもありますよ」関連している文章:
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