ろまんちすと
◆ ◆ ◆ 北尾君の相談シーンは削除する。だってそれは、前にあった相談と大して変わらなくて、面白味も新鮮味もないから飛ばしても何の問題もなかった。出来ることなら相談事態を飛ばしたかったけど、遠まわしに断りたかったけど、恋愛相談の相手が問題だった。 北尾君が好きな人。それは、姫条さんだった。
―――その日、北尾は忘れ物をして学校に戻っていた。 部活動の後、帰路の途中で気づいたので、学校に戻った時は大分遅い時間だった。 昼間と違う顔を見せる校舎。喧騒は消え、肌に刺さる静寂と静謐が廊下に漂う。拒むとはいかないまでも、歓迎されているとは思えない空間。 空虚ではなく、虚無でもない、空っぽに近くも遠い感覚。
濃霧をかき分けるような幻想の感触を覚えながら、北尾は教室まで来た。 そこにはいた。 世界が変わったと錯覚してしまうほど、 心奪われ惹かれる存在が。 クラスメイト。可愛いと評判で、常に周囲に人がいる人気者。 意識していなかったわけではないが、可愛い綺麗な子という認識でしかなかった。
闇に染まる世界は、校庭を照らす僅かな光源しかない。 ―――心拍上昇――― ―――呼吸困難――― ―――視界明滅――― 思考の空白なんて言葉で知っていても、実際に体験することなんてないと思っていた。 彼女の姿を見て、何もかも奪われる。 それは時間であり、
それは感情であり、 それは北尾自身。 一目惚れなんてあると思わなかった。 同じ人間に、自分の全てが奪われる現実が想像できなかった。 想像できなくて当然なのだ。想像することさえ烏滸がましい。 それは感覚よりも感情よりも理屈よりも理解よりも、何よりも違って同列である、心よりも自身に近い、魂に等しい体感。関連している文章:
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