「……散歩?」 茜ちゃんの表情があからさまに怪訝なものになった。 いらん疑いを持たれる前に、誤解はといておくか。 「色々と勘ぐりたくなる気持ちは分からないでもないけど、別に何でもないから」 「ふ?ん……まあ、遅刻さえしなきゃ別にいいんだけどね、あたしは」 「それに、ちゃんと目だって覚めてるし」
「そこはどうも信用できないんだけどね」 ……やっぱりひどい話である。 狼少年でも、もう少しマシな扱いだろうに。 「授業中もちゃんと起きてなさいよ? 寝てても起こしてあげないんだからね」 「分かってるって。これでも最近は、前に比べればずいぶん起きてる方なんだから」 「……そんなこと胸張って言われても、ね」
「……ホントに」 茜ちゃん、あやの共に相当に呆れている様子だったが、とりあえず気にしないでおこう。 いつの日か見返してやるぞ……と、密かな反骨心を胸に抱きながら。 「そう言えばもうすぐ修学旅行よねー」 「えっと……来週の終わりからだっけ?」 「そうそう、章にしてはちゃんと覚えてるじゃない」
「そりゃね。このぐらいは覚えてるよ」 ―――ホントは、つばさちゃんとの約束の日だから覚えてるって部分が大きいのだが……。 そんなことは口が裂けても言えなかった。 「いいな?修学旅行。楽しそうだな?……しかも北海道だし」 「あやのだって来年なんだから、一年ぐらい大人しく待てって」 「それはそうなんだけどさ……でも、いいな?」
……変なところで子どもっぽいよな、あやのって。 まあ、来年は僕達がうらやましがる番だろうから、せいぜい今のうちにやらせておくか。 「お土産忘れないでね、お兄ちゃん? ちゃんとお母さんの分もね」 「分かってるって」 このセリフも修学旅行の話になる度に聞かされているので、いい加減に耳タコだったりする。 「適当なの買ってきたらダメなんだからね? 変なキーホルダーとか、ペナントとか、罰金ものだよ?」 「分かった分かった」関連記事: