こうなった原因はただ一つ、低温である。 ホーネットも従来の銃火器と同じく、撃鉄が弾丸の底に仕込まれた火薬を叩いて発火させ、銃口から弾を撃ち出す仕組みだ。そしてこの火薬が燃える時、副産物として水分が発生する。 連続して射撃を繰り返す度に内部についた水が少しずつ氷結して、とうとうスライドの動きを妨げるまでになってしまったのだろう。
「くそっ!」 未来は吐き捨てたが、敢えてホーネットを離さない。 彼女が銃を確認している間に、アンディとの距離は目測11ヤード(約10メートル)以下まで縮まっていた。 唯一の飛び道具が役に立たなくなったのだ。作戦を変更するしかない。 未来が突き出されてくるロボットのアームから逃れようと振り向いて走り出したところへ、通路の反対側に回り込んだ無人ロボットが姿を現した。
最も陥りたくなかった、挟み撃ちのポジションだ。彼女の歯の間から鋭い舌打ちが上がる。 棚の間の通路は狭く、ロボットの脇をすり抜ける際にアームに捕まる危険性は高い。攻撃の空振りを誘ってからジャンプし、機体を踏み台にして上に抜け、そのまま後方へと逃れる方がいいだろう。 取るべき行動を決め、未来は動きの予測しやすいアンディの機体へと再び走った。
幸い助走距離は十分にある。 ロボットの頭まで一気に跳ぶつもりで、彼女は力強く跳躍した。 地面を叩いた足に、少なくともいつもと同じ感覚はあった。 なのに足の裏が大きく横に滑り、身体は棚の方へ斜めに跳んでいた。 真上には殆ど行けなかったのだ。「え……」 踏み切りに完全に失敗したことに、体温の維持が身体の末端まで行き届かず感覚が鈍っていたことに、未来は瞬時に気づくことができなかった。
驚愕の表情に彩られた黒い瞳が見開かれ、しなやかな手足が硬直する。「叩き落とせ!」 アンディの命令が聞こえたその時、空中にある未来は何も抗う術を持っていなかった。 細い身体を、後ろからアームの黒い影が覆う。 三本指の巨大な鉄の手が、暴走車の如き絶望的な勢いで落ちかかる。関連記事:
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