「ぁ…」「謝罪はするな。もう目をつぶったのだ。そうだろう?」「はい…」 女が気まずそうに顔を伏せる。己の言動を反省しているのであろう。『まぁ、嘘なのだが』 貴族の屋敷での商人の言葉から手に入れた情報だ。恐ろしくて近寄ることも出来ないと言っていたことから、ゴルディシア山付近の魔物は人間にとって恐怖の対象なのだろう。「ですが、どうしてゴルディシア山の近辺で生活を?」
「ゴルディシア山からそれほど遠くない場所にあった小さな集落の出身なのだ、私がまだ成人手前の頃に突然、中級魔物が群れで現れてな。私以外はその時、皆死んでしまった」「そ、そんな場所に集落が…。中級魔物、それも群れでなんて…」「原因は不明だが、魔物たちが山から遠ざかり私たちの集落を見つけたのだろう。それからは1人で生きていくため、力をつけ無我夢中で生活してきた。さすがに、中級魔物などには手が出せんがな。見つからぬよう息を潜め、やり過ごすだけだ」
「当たり前です!1人で中級魔物など無謀すぎます!」「あぁ、死んでしまったらそこで終わりだ」「はい」 やはり、1人で中級魔物に挑むことはないのか。クラウディスという人間がどれほどの腕かは知らんが、その者をしても無謀なことなのかもしれない。だとすると、相当人間は弱い。中級魔物にすら個の力で及ばなければ、上級?最上級魔物などはどうする。国ですら対応出来ないとなると身を守る術がない。
改めて人間の弱さに失望していると今まで気になっていたことを女に問う。「それにしても、お前はいつまでここにいる?」「お邪魔でしょうか?」「そうではない、仕事はよいのか?」「それならば問題ありません。案内役だけで10人はおりますので、私がご案内致しますのは、あと3名ほど。闘技大会期間は一時的に多くの従業員を雇っております」「つまり暇だということだな」
「は、はい…」「私としてはいろいろと話が聞けて助かる」「そう仰っていただけると光栄です」 この女と話をしている間も予選は続いていく。私以外にもこちらの席に多くの参加者がやってきているが、一様に疲労の表情を浮かべ、怪我により医務室に運ばれて行った者も幾人かいる。腕自慢の集まりかと思えば下級魔物を必死の思いで討伐できる程度、決勝トーナメントでは加減を間違えると殺してしまうかもしれない。関連記事: