ウィズからは相変わらず連絡がない。 思い出すと泣きそうになるので、できるだけ再生しないようにしている最後の彼の姿は、あの晩、一言もあたしに声を掛けずに、サイモンさんと一緒に部屋を出て行った後姿だ。
こともあろうに彼は、眠り込んでしまった怜さんとあたしを二人きりで残して、ホテルに帰ってしまったのだ!
腹が立って携帯に電話しまくっても出ない。 市内で彼が泊まっていそうなホテルに見当をつけて、何か所か回ってフロントに尋ねたりしたけど、結局見つけることが出来なかった。
「もう、ほっとけよ。 やりきれなくなったらやめるだろ」 夕べ「ウィザード」にやって来た怜さんは、見放したような口調で吐き捨てた。
ただ見ているだけの客席の人間にも、それなりにリハーサルみたいな時間があって、前座なんだかお手伝いなんだかわからないが、見たことのない芸人さんが笑わせに来てくれたりした。 そのあと、番組のスタッフから挨拶と進行説明。 話の中で、出演者が大幅に減ってしまうというハプニングがあったらしいことがわかった。 「腕自慢の占い師や霊能者の方に集まっていただいたんですが、趣旨を取り違えていた方もいらっしゃって、内容がわかったとたんに4名ほど帰ってしまわれまして、先ほどからパネルや席を作り替えるので大わらわでした。 皆様には、セットの不自然なところが見えても、注目しないで頂きますようお願いします。 心配ないです、うまいことテレビには映らないようにしますから」 ディレクターらしい男性が、そういって客を笑わせていた。 スタジオに作られたゲストの雛壇は、4段の階段状になっていて、ざっと数えて30席ばかり並んでいた。 でも、あたしはまだあきらめてない。 焦っちゃダメだ。 あたしの魔術師は、普段から人よりちょっとばかりテンポがゆるいんだから。マークバイマーク あの時ウィズは、あたしがサイモンさんからチケットを貰うのを止めなかった。 自分の口で「来い」とは言ってくれなかったけど、嫌だったらいくらでも止められたはずだ。 あれから2日も経ってるんだし。 閉じてしまったウィズの中に入る、入場券。 それしか彼に会う方法がないのだから、まさに最後の砦だ。 あたしはチケットを握りしめて、テレビ局へ向かった。 テレビスタジオで生放送を見るのは初めてだった。 驚いたのは、テレビで流している映像というのは、ほんとにメインのいいとこだけなんだということだ。関連している文章:
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