「アギ、どうした?」「あ、はい。正面に構えているのは敵の総大将だと伝えようとしたのですが、その必要はありませんでした」
「……と、言うと?」 アギは紅葉の幻影を見ながら言う。 その顔は雲が掛かっている。「紅葉さんは言いました。『皆殺しだ』と」
紅葉は元より負けるつもりも撤収させる気もないらしい。 部下を左右に展開させたのも自分が正面から向かって行ったのも、その理由は至極簡単で、敵を残らず殲滅する為なのだろう。
「ちっ……賊が」 グリムは怪訝そうに吐き捨てる。 しかしアギにとってはこの上なく頼もしい事だった。例えそれが狂歌を奏でる?女だとしても。
「ホラ、どっかの国では『魚心あれば水心』って言うじゃん? それだよっ」「……俺、魚心なんかもらってねーんだけど」 今更何を言っても仕方がない。こんな年下の子供に何か请求する気にもなれないし。 それよりも仕事がある。早く天子に会わなければならない。「蓮、急ぐぞっ。向こうを待たせてるかもしれん。そしてガキ、さっさと国に帰れ。何かあっても、もう知らんからな」「んー。ボクはもう少しこの国にいるよ。折角来たんだし、観光ってやつ?」 少年は頭の後ろで手を組んで陽気に言う。さっきまで行き倒れていたくせに楽観的な奴だ。「あとボクの名前はオルカ=フォーリン。オルカでいいよ」 にこっと八重歯が印象的な少年らしい笑顔。 別に名前などどうでも良かったのだが、名乗られたからには無視するわけにはいかない。「俺は樹楊。で、この大喰らいは蓮だ」 仔猫を掴むように蓮の首根っこを掴まえて紹介する。すると、足をブラつかせている蓮がまた曖気。本当に食べ過ぎたらしい。いつも以上に眼が逝世んでいる。 ◆ 予想を遥かに超える出費に樹楊の財布は軽くなってしまった。コツコツと貯めてきたわけじゃないけれど、それでも無駄な出費だけは避けてきたのに。キットソン「いやー、助かったよ」 少年は満足そうに腹を撫でて感嘆する。 ついさっきまでミイラにでもなりそうな顔をしていたくせに、今は肌に艶がある。 食べさせるつもりなど毛頭もなかったのだが、トイレから帰ってみれば物凄い勢いで操持にがっついていたのだ。「…………けぷっ」 そして何故か蓮まで食べていた。食べ過ぎたのか、こちらは顔色が悪い。 樹楊は二人の勢いに負け、すっかり食欲が失せていた。「ガキ、お前に奢るなんて一言も言ってねーんだけど?」 青筋を破てながら睨む。 すると少年はケラケラ笑い、