「ふん……やはり弱いな。人間の肉体は、非力にして脆弱。うまく力が入らぬ、それに動きも鈍い」 言葉と共に黒土麿が、松虫の細腕で太刀を振るう。
非力、鈍いなどと言いながらも充分に猛烈なその斬撃を、清春は地面に転がり込んでかわした。 即座に起き上がり、炎の剣で斬り掛かって行く。
緋吹童子が、まさに獣の速度で、清春の鍛錬不足な肉体を操ってくれる。 炎の斬撃を後退りで回避しつつ、黒土麿は問いかけてくる。
「やはり人間など、我ら鬼にとっては邪魔な衣でしかない……緋吹童子よ、貴様は何故こんなものを自ら身にまとう？」
擦れ合う２本の刃の向こうで、黒土麿が叫ぶ。「俺がお前を束縛してやる！ 一生、独占してやる！ だから俺のもとへ帰って来い！」「今更そんな事を言うくらいなら何故！ あの時、私を引き止めなかったのですかッ！」 緋吹の怒りが、清春の身体を動かした。脆弱な足が、鬼の脚力を宿して跳ね上がる。 その蹴りが、松虫の腹にズドッ！ と叩き込まれた。「うっ……く……」 息を詰まらせ、細い身体を折る松虫。 清春は、ひやりとした。自分に負けず劣らず、松虫の肉体は屈強さとは程遠い。これ以上、何かをしたら死んでしまうのではないか。 緋吹もそう思ったのか、さらなる攻撃を加えようとはせず、言い放つ。「まあ貴方が悪い、とまで言うつもりはありませんよ。あの時はお互い、意地になり過ぎていた……そして終わってしまった。ただ、それだけの事です」「何度も言っている、貴方には絶対わからないと！」 清春の口から、緋吹の声が出た。 それと共に紅蓮の斬撃が、松虫の眼前を激しく通過し、すぐさま角度を変え、振り下ろされてゆく。marc jacobs iphone 第２撃、３撃。息つく間もなく閃く炎の剣を、黒土麿は松虫の身体でかわし続けた。「そうか……鬼遣いなどという衣に自ら包まれ、束縛されようと言うのだな」 ４撃目をかわしきれず、太刀で受けながら、黒土麿が呻く。鉄の刀身と炎の刀身が、ぶつかり合って甲高く音を響かせる。 その響きが空中に残っている間も、清春は緋吹の身体能力で躍動し、炎の剣を振るい、燃え盛る斬撃を降らせた。うち何発かが黒土麿の太刀と激突し、火花を散らせた。「……お前は昔からそうだったな、緋吹童子。常に誰かに束縛されていなければ、耐えられぬ……」 鉄の太刀と炎の剣が、一際激しくぶつかり合い、そのまま噛み合い、動かなくなった。関連している文章：
Related articles:
