「いえ、そういった話ではありません。ただシロラディア様の同居人としての雅を調べて天位の文献に目を通したときに気になる一節があったのです」
期待するシロとは対照的にイルはシロと俺を見渡し、言葉を選ぶように続ける。「その文献にはこうあります。“天位の技、魔性の技にて呪われし業（ごう）”。天位の使い手はすべからく“欠落”を背負うというものでした」
「欠落ぅ？ なになにどういうこと？」「詳しくは知り得ませんが、天位はその能力が強大であればあるほど自身の大切なモノを喪失するらしいのです。まるで力を得たことの代償とでもいうように」
イルはそこで言葉を切り、俺を瞳に映す。「何の確証もない伝記です。実際に外的な要因で呪詛の類いがあるわけではありません。ですが、これは事実なのですか？」
「お、雪が降ってるぞ」「え、ホントォ～?」 シロが椅子から離れ、トテトテと側にやって来る。 窓を開けると凍えた大気が肌を撫で、灰色の世界に白い雪が深々と降っていた。「初雪だな。通りで寒いわけだ」「わぁ～? 綺麗」 シロは俺の隣で感嘆の声をあげ、自然と俺の手に自らの手を添える。 シロの体温を左手に感じながら、俺は冬の情景を眺める。 イルは言った。天位とはその能力が強大であればあるほど大切なモノを喪失する。力の代償に犠牲を必要とする技だと。 それは―――真実だ。 他者犠牲自己犠牲。能力に応じてあらゆるモノを喪失する呪われた技。 それが天位だ。 イルの瞳が俺の内面を射抜くように細められる。「もしこれが事実なら、貴方は――」「ただの伝記だよ」グッチ 財布 レディース イルにみなまで言わせずに俺は言葉を発する。「確かにそんな話はある。だがそれは昔の、天位と使徒との戦いが頻発していた時代の話だ。今の世の天位遣いで欠落を背負う者なんてそういない。あったとしてもどこかで千円落としたとかそんなもんだ」 平時通りの声音、仕草で語る俺をイルは無言で見つめ、シロはどこか不安そうにそんな俺とイルを交互に見比べている。「では、宏治様はどうなんですか？」 尚、話題を継続させるイル。俺はそれを断ち切るように椅子から腰を浮かし窓際に歩み寄る。「さぁな。あまり欠落がどうとかは話さんし、それでも五千円なくしたとかそんなとこだろ」 昼前は晴れていた空はいつの間にか雲が覆い、外は薄暗くなっており、そのなかにちらほら白い粒が舞っていた。関連している文章：
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