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あるとき、かすかだけれど魔王のスカートの中から泣き声のようなものが聞こえてくることにテフテフは気がつきました。女の声で、誰かがしくしく泣いているようです。テフテフを足元で遊ばせながら、ついさっきまで魔王は何かの本を読んでいたのだけれど、今はうたたねをしています。その長いスカートの中から聞こえてくるのです。
好奇心に駆られ、テフテフは耳をすませました。小さい声だけれど、たしかに聞こえています。間違いありません。テフテフはスカートのすそをほんの少し持ち上げてみました。少し迷いはしたのだけれど、思い切ってその中に飛び込んでみたのです。目の前は真っ暗になり、以前と同じような落下があって、テフテフは女王ジュディのトイレにつくことができました。
トイレといっても広々としています。2回目だからもう慣れていて、部屋の中心ではなく、できるだけ邪魔ものがなさそうなすみっこにテフテフはうまく着地することができました。ここで女王ジュディのあだ名について話しておきましょう。彼女のあだ名はなんと『カメムシ女王』というのでした。カメムシというのは、コガネムシを丸く小さくしたような虫で、指でつつくとものすごくくさいオナラをします。おまけに害虫でもあり、畑の木や植物の葉を食べて大きな被害を出すことのある嫌われ者です。でも女王ジュディはこのカメムシが大好きで、ペットとして自分の部屋で飼っているそうでしたが、このときテフテフにはその理由がわかったわけでした。
「おいで」やさしく手を引いて、女王はテフテフをトイレから連れ出しました。廊下を歩き、自分の部屋へ連れていってくれました。そしてペットのカメムシがいる虫かごを見せてくれたのです。カゴの内部にはやわらかい土を敷きつめ、食べられる草を植え、誰かの手作りだろうけどボール紙製の小さなお城が置いてあります。その城の中にカメムシが一匹ぽつんといるというのは、奇妙な眺めではありました。そしてこのカメムシが女王ジュディのただ一人の弟その人であると聞かされたとき、「どうしてこのカメムシがあんたの弟なの?」とテフテフが口にしたのは当然だと思います。
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