トーリの背中にぎゅとしがみ付いたユフェリアが口を開こうとすると「舌を噛む!」と怒られた。 それで更に拗ねたユフェリアは孤児院に着いて、クライブから降りたトーリに手を差し出されたとき、そのまま飛び降りるようにしてトーリに抱きつく。 トーリはユフェリアを絶対に拒絶しない。 いつも柔らかく受け止め、愛しむような顔を向けてくれる。
だからこそ。「……トーリ様は陛下がお好きなのですか?」「アストロッドのこと? 好きだけど」「! そ、それはどういった意味ですの!?」 トーリの首に腕を回したまま、ずいっと涙目で迫るユフェリアを受け止めながら、トーリはアストロッドを思い浮かべるように空を見上げる。「そうだなぁ……好敵手? あいつと居ると楽しい。俺を対等に扱い、俺に信頼を寄せ、友としている。だから、俺も同じ思いをアストロッドに返す」
「…………」「アストロッドは面白い。こんな異分子の俺をすんなり受け入れた。それも、友として」「そんな、私だって……」 ふっと微笑まれて、ユフェリアはそれ以上何も言えなくなった。 私だって、トーリ様の……何なのだろう? 友達、なのだろうか。「トーリ様は、私のことをどう……」「好きだよ」「え?」
「愛してる」「ト、トーリ様?」 「俺の可愛いユフェリア」「あ、あのあのあのっ……!」 自分が抱きついていたはずなのに、逆にトーリに抱きしめられてユフェリアは真っ赤になりつつ、トーリの細い身体に腕を回した。 すると更に力を込められる。 ユフェリアが苦しく無いように、力を加減しつつ、本当に大切な物をその腕の中に隠そうとでもするように。
そんなことはありえないのに、ユフェリアは時々、トーリが縋りつく子供の様に見える。 圧倒的な強さを持ちながら、ユフェリアに向ける視線は優しく……弱弱しい。 そんな気がしてしまう。 自分だけに、トーリが本当の姿を見せてくれているような気がして。 心から楽しげに話をする、アストロッドとトーリの姿をユフェリアの中から霧散させた。関連記事: