「……」 クルドは俯いた。 同じ平民出身でも、向こうは高位神官の中でも選ばれた特別職。こっちはシャーレンが拾ってくれなかったら、危うく大教会を追い出されるところだった、ただの下位神官だ。そしてあっちは美形。こっちは凡顔……。
「……ロゼス様もですか。そうですか。……それもこんな珍しいものを贈っちゃって……一歩リードみたいな?」
顔に陰を落として、ぼそりと言う。「?」 シャーレンが首を傾げた。「何がロゼスもなのですか?」
クルドは慌てて顔を上げ、明るい表情を作って首を振った。「あ、いえいえ……何でもないんです!えーと……でも、ロゼス様はどうされたんでしょうね?こんな珍しいものを」
同じ平民出身なのにうらやましい、とクルドがぼやく。 シャーレンはくすりと笑った。「よいではありませんか。私はクルドが異端審問官などになるより、側にいて私の面倒を見てくれる方が嬉しい」「ロゼスは貿易商を営んでる知人から譲り受けたと言っていました」「貿易商……。そういえばロゼス様の後見人は大商人のスフォルツァ?イーリアでしたね。イーリア一族の当主ならそれぐらい手に入れられるかも」トリーバーチ 楽天「イーリア……ロゼスはイーリア一族の出身なのですか?」「そうらしいですよ。なんでもロゼス様は遠縁の商人の息子だとか。今のイーリアの当主とはもうほとんど血のつながりはないぐらい遠い関係らしいですけれど。でも、あの通り優秀な方です。将来の出世を見越して、現当主スフォルツァ?イーリア自らが後見についたとか」 イーリアとえいば、世界の果てまで手が届くと言われる当代きっての大商人だ。特に今のイーリアの当主は敏腕な政治家でもあり、その資金力を持って、今や領主代行として海洋都市を治めているときく。 確かにいくら優秀とはいえ、ロゼスは平民出身だ。傘下の教会ならばともかく、それなりの後見がなければ貴族ばかりが占めるこの大教会には、入ることすら難しい。「……そうですか。あのイーリアの当主がロゼスの後見人……」「ロゼス様は神学校の教科も一年程度で習得し、首席で卒業されたらしいですよ。その後しばらく元いた地方の教会にいらしたそうですが、有能さが大司祭の目に留まり、大教会に引き上げられたのが四年前。今回の大抜擢は教皇御みずからのご意向ともっぱらの噂です。まさに普通じゃ考えられないような出世コースですよね。……僕なんかとは本当に全然違いますよね……」関連している文章:
Related articles: