その威力を考えると、その反動は大きい。まだその反応で、こっちの腕は身体が傷つく、ということはなかったが、『夢旅』のより鋭敏になった触覚が、ダイレクトに相手のダメージを伝えてくれる。正直、あまりいいものじゃなかった。生身の人間なら、どうなっているのだろう……。想像するのも恐ろしかったから、オレはオレ自身にこれ以上の力をつけることはしなかった。
その一撃で、雨の魔物は苦悶の声をあげる。(……?)オレはその声に、一瞬すごく嫌な不快感を覚えた。それは、聴覚が強化されているからこそなのか……はっきりしない。しかし、それを確かめる術もなく、雨の魔物はやみくもに剣を振るってきた。当たれば怖いが、当たらなければ始まらない。オレはその隙を見逃さなかった。……勢い込んで剣を振り上げた雨の魔物の腕を掻い潜って、伸び上がるように顎めがけて拳を突き上げる!
「ヴャアアアッ!」確かに捉えた、骨のようでいてそうでない、金属の感触。雨の魔物は再び声をあげて、ふらふらとよろける。今のは相当効いたようだ。これを何度か続ければ、勝てるかもしれない……そう思ったときだ。オレは、唐突に雨の魔物の声の正体に気づいた。きっと普段なら気付かないのだろうが、『夢旅』の力はそれを見逃さなかった。
オレは、思わず後退さってしまう。「まさか……今の声は……」雨の魔物の声には、たくさんの声が混じっていた。多くの人の声。その中に、確かに聞き覚えのある声が、二つあったのだ。―――奴は、黒陽石の依存の力で、捕らえたものを喰らい、その身の糧にしている……。「そんな……本当に……?」オレは呆然としていて、雨の魔物の鋭い顎が、近付いているのに気が付くのが遅れた。
「雄太さんっ!」まどかちゃんが、声をあげた時には遅かった。雨の魔物の口の中から出てくる、何か圧倒的な力の気配。「ヴァオオオオオオオッ!」「がっ?」それは、超音波のようなものだろうか、雨の魔物に取り込まれた人達の悲痛。不快感の正体。関連記事: